樹液の話 - メイプルシロップはなぜ甘い –

メイプルシロップは導管液
 
科学フェスティバルなどで、「樹液を飲んでみませんか!」と声をかけると、皆さんギョッとされます。
 
たぶん、カブトムシのなめている樹液を連想するからだと思いますが、メイプルシロップの原液だと分かると、「味見してみよう!」となる方が多いです。
 
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メイプル樹液は、カナダで春先に、芽吹く前のサトウカエデの幹から採取され、パック詰めで市販されています。無色透明・無臭で、うす甘い味がします。
 
この樹液にはミネラルと2%のショ糖が含まれていて、40倍に煮詰めることでホットケーキにかけるメイプルシロップが作られます。
 
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実は、この樹液は、春先に導管を通して根から芽へ送られる導管液で、そこに含まれるショ糖は芽吹きのためのエネルギーとして使われています。
 
 
メイプル樹液の採り方
 
メイプル樹液は、まだ雪の残っている早春、サトウカエデの幹に木部まで穴をあけ、管を差し込んで、出てくる滲出液を集めたものです。
 
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樹液は、まだ寒い、芽吹く前の一か月間しか採れません。一本の木から4080リットルの液が採れるので、それを40倍に煮詰めてショ糖濃度80%のメイプルシロップが完成します。
 
この様にメイプルシロップは貴重な自然の恵みなのです。
 
 
虫たちが大好きな樹液は篩管液
 
樹液は虫たちの餌にもなります。夏にカブトムシやクワガタはクヌギの幹の傷口からにじみ出てくる樹液をなめています。
 
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この樹液にもショ糖が含まれていますが、この樹液は篩管(しかん)からにじみ出てきた篩管液だと考えられます。
 
クヌギの樹液は夏にしか出ません。なぜかというと、この樹液は、葉において光合成によって作られたショ糖を含む篩管液が、根に向かって篩管を通して流れる途中で、幹の傷口から漏れ出てきたものだと考えられるからです。
 
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また、緑色やオレンジ色などの小さい虫が、草花の茎にびっしりついているのを見かけることがありますが、この虫はアリマキ(アブラムシとも呼ばれます)で、口吻を茎に刺し篩管液を吸っています。お尻から、余った甘い篩管液を甘露(かんろ)として出しており、アリがそれをなめに来ることからアリマキと呼ばれています。この篩管液に含まれるショ糖(約10%)も、夏に葉で作られたものです。
 
 
普通の導管液は甘くない
 
メイプルシロップは導管液だと言いましたが、普通、導管液には根で吸った水とミネラルが含まれ、糖分はほとんど入っていません。
 
夏にカボチャやヘチマ等のウリ科植物の茎を地際で切断し、根側の切り口を瓶に指しておくと、一日で数百ミリリットルの無色透明な導管液が採れます。
 
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ヘチマの導管液はヘチマ水と呼ばれ、昔から化粧水に使用されていて、ヘチマコロンとして市販されています。
 
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セミの成虫や幼虫は木の幹や根に口吻を差し込んで、この導管液を飲んでいます。セミの幼虫が大人になるまで7年もかかるのは、餌となる導管液の栄養が乏しいのが原因かもしれません。
 
 
メイプル樹液が甘い理由
 
普通の導管液は甘くないのに、なぜサトウカエデの幹から早春に採れる導管液は甘いのでしょう?
 
落葉樹は春から夏は葉で光合成をして作ったショ糖を茎葉や根の成長に用います。ところが夏の終わりになると成長を停止してしまうので、合成したショ糖は使わないで、幹の中にデンプンの形で貯蔵します。
 
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秋の終わりには葉を落として休眠してしまいますが、冬から早春にかけて、デンプンを分解してショ糖を生産します。そのショ糖を根を介して導管液の流れに乗せて芽に送り、芽生えのためのエネルギーや成長の材料に用います。これを人間が横取りして作ったのがメイプルシロップです。
 
 
シラカバやブドウの樹液の利用
 
他の落葉樹でも同様の現象が起こっていて、シラカバから採取された樹液(導管液)がフィンランドや北海道でドリンクとして販売されています。
 
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ワイン会社のメルシャンは、冬に剪定してあったブドウの枝の切り口から、早春に滴り落ちてくる樹液(導管液)を集めて化粧水を販売しています。
 
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ポプラを用いた根の機能に関する研究
 
私たちは、年間を通して根の機能が環境要因によってどのように制御されているのか、導管液に含まれる物質の生理機能は何なのかを解明するために、ポプラを用いて研究を行っています。
 
環境に応答した年間生長サイクルを有するポプラは、紙パルプやバイオエタノールなどのバイオマスとしても有用で、 2006年にゲノムが解読され、優れた遺伝子導入系を有するモデル樹木です。
 
私たちはポプラの根の機能の年間変動を調べるため、キャンパス内のポプラの枝の切り口に吸引ポンプをつなぎ、年間を通して導管液を採取してその成分の変化を解析しました。
 
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その結果、導管液に含まれるカリウムやカルシウム、糖、タンパク質が、12月から2月の冬季に顕著に増加していることが判明しました。
 
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この時期、眠っているように見えるポプラですが、土の中では根が活発に活動を開始していることが分かります。
 
現在、冬季に増加するこれらの物質が、冬季環境に対する耐性や春の芽吹きにおいて、どのような役割を担っているのか、無菌ポット栽培したポプラを用いて解明を進めているところです。
 
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また、秋の短日が根の機能に影響を及ぼすことも明らかとなり、葉が受けた日長の情報がどのように根に伝わって根の機能を制御しているかにも注目しています。
 
普段、土の中で眼につかない根ですが、縁の下の力持ちとして大切な仕事をしているのです。


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